私は、かつて「脳を騙せば、誰でも続けられる」と書いた習慣作家でした。
英会話、早起き、筋トレ、ブログ。何度も挫折した自分と、英会話スクールのお客様のデータを観察し、気合へ頼らず行動を自動化する方法を体系化しました。
ベビーステップで始める。挫折しやすい「峠」を知る。脳の抵抗を小さくし、反復によってオートメーション化する。
その方法は役に立ちました。私自身、筋トレや早起き、ブログなど、以前は続かなかった行動を継続できるようになりました。
しかし、一番苦しんでいたのも私でした。
目標を決め、計画を立て、脳を理解し、環境を整え、自分をうまく動かす。方法が気合から科学へ変わっても、「私が私をコントロールしなければならない」という前提は残っていたからです。
2026年、その前提がひっくり返りました。
「続ける」のをやめたとき、これまで止まっていたものが、驚く速度で「続いてしまった」のです。
この記事の結論
『続いてしまう環境』とは、決めた行動から逃げられないよう自分を囲う環境ではありません。「なんか気になる」という微細なCurrentを観測し、1センチだけ動き、次の接続が現れられる環境です。習慣作家として積み重ねた意志力・脳科学・環境設計を否定せず、その奥に残っていた自己コントロールを手放した先に生まれました。
第1世代|気合と規律で自分を動かす
もともとの私は、「流れに身を任せる」といった言葉とは無縁でした。
海外でMBAを取得し、外資系投資銀行、会計事務所、ベンチャーキャピタルを経て起業。戦略、KPI、PDCA、期限、責任。数字と論理で現実を動かす世界を生きてきました。
努力が嫌いだったわけではありません。むしろ汗臭い努力論が好きでした。
目標を決め、計画を作り、できない自分を叱咤し、峠を越える。成果も出ました。しかし、常に「自分がコントロールしなければ崩れる」という緊張がありました。
第2世代|脳を騙して習慣を自動化する
英会話スクールを運営する中で、気合だけでは多くの人が続かないことが分かりました。
そこで、脳科学、心理学、行動経済学を調べ、うまく続いているお客様の行動を分析しました。その結果をまとめたのが、2020年の習慣本『脳を騙せば誰でも続けられる――人生を変える習慣構築法』です。
当時の本には、こう書いています。
答えは才能ではなく、脳を騙す「習慣化=オートメーション化」にあった。
気合でロケットスタートするのではなく、ベビーステップで抵抗を小さくする。挫折しやすい時期を「峠」として先に知る。自己コントロールのコツを使い、反復によって自動運転へ移す。
これは第1世代からの大きな進歩でした。
「意志が弱い人」という人格評価をやめ、誰でも再現できる仕組みへ移したからです。実際、英語学習のように反復が必要な基礎技能では、現在も有効な方法です。
それでも「私が私を動かす」構造は残った
脳を騙す方法は、気合より優しく、再現性も高い。
しかし、よく見ると管理者は同じです。
Meが「これは将来のために必要だ」と決め、抵抗する脳を理解し、報酬やベビーステップで誘導し、望ましい行動へ連れていく。
腕力で押す代わりに、操作レバーが巧妙になっただけとも言えます。
脳科学を学べば学ぶほど、自分をうまく管理できるようになります。一方で、管理している自分自身は休めません。
第3世代|環境を設計して意志力を使わない
次に現れたのが環境設計です。
行動の合図を決める。道具を近くへ置く。通知を切る。望ましい行動の摩擦を下げ、誘惑の摩擦を上げる。
これはさらに大きな進歩でした。毎回、意志力や報酬で自分を操作しなくても、環境に入れば行動が起きやすくなります。
ただし、ここにも「先に正しい行動を決め、その行動しか起きにくい水路を作る」という構造は残ります。
詳しい違いは、「習慣化と環境設計|続けやすい環境と『続いてしまう環境』の違い」で整理しています。

第4世代|Currentを発見する
転換点は、「もっと上手に続ける方法」を発見したことではありません。
続けさせようとすること自体をやめたことでした。
2026年5月から6月にかけて、TODOリストと緻密な計画をいったん手放しました。そして、「これをやらなければ」ではなく、「なんか気になる」「少し触ってみたい」という微細なシグナルに従って、1センチだけ動く実験を始めました。
私はこの、今ここですでに動いている流れをCurrentと呼んでいます。
Currentは大興奮や強いワクワクだけではありません。
- 理由は説明できないが、少し気になる
- 一文書くと、次の一文が現れる
- 一人との会話から、別の企画へつながる
- 作ったものが次の人・情報・媒体を呼び込む
- 疲れたら別の流れへ移り、あとで自然に戻る
押している感覚より、接続されていく感覚があります。
計画を捨てた結果、何が起きたのか
当初、私は「本を書こう」「新サービスを立ち上げよう」「大量のサイトページを作ろう」と一括計画したわけではありませんでした。
GWの小さなざわつき、コーチング中のひらめき、妻との雑談。そこから1センチ動いた結果、流れが別の流れへ接続しました。
2026年6月には、本9冊(英語版3冊を含む)、200ページを超える中級英語教材、オンライン新サービスbeyondZ EnglishとbeyondZ Labが形になりました。
7月にはオウンドメディアを立ち上げ、約600ページを制作しました。
この数字が重要なのは、「たくさん作ったから偉い」という意味ではありません。
長年、計画しても着手できなかった中級教材のようなものまで、計画と自己強制を手放したときに動き始めたことです。
『続いてしまう環境』とは何か
『続いてしまう環境』は、自分を逃げられなくする仕組みではありません。
Currentを発見し、邪魔せず、次の接続が現れられる状態です。
1.1センチだけ動ける
完成や継続を約束せず、一文、一検索、一会話だけ試せます。
2.未完成を置いておける
毎回ゼロから意志力で再開せず、次に触れたとき流れへ戻れる痕跡があります。
3.行動の変更が許される
本から教材、教材からサービス、サービスから記事へ移っても、同じ創造の流れなら「脱線」としません。
4.他者と世界から反応が返る
Currentは頭の中だけで完結しません。会話、読者、顧客、スタッフ、AI、偶然の出来事から次の材料が返ります。
5.休息も流れに含まれる
止まったように見える時間を失敗にせず、熟成や方向転換の可能性を残します。
6.結果を先に固定しない
計画は命令書ではなく仮設水路です。現れた現実を見て、必要なら水路を動かします。
過去の習慣本は間違っていたのか
間違いだった、とは思いません。
気合しか知らなかった人に、ベビーステップや自動化を渡す。反復が必要な英語学習を、一般の人にも続けやすくする。その役割は現在もあります。
ただし、それが最終地点ではありませんでした。
第1世代の規律、第2世代の脳科学、第3世代の環境設計。それぞれの段階で摩擦は減りました。しかし、「私が私を望ましい未来へ運ぶ」というDoingの前提は残っていました。
Currentへの移行は、過去を否定する革命ではなく、過去の方法が届かなかった場所まで進む更新です。
脳を騙すから、脳を観測するへ
以前は、脳を行動のハンドルとして扱いました。抵抗する脳を騙し、習慣回路を作れば動けると考えました。
現在は、脳や身体の状態をダッシュボードとして見ます。
ただし、ドーパミンが単なる結果で、行動へ影響しないという意味ではありません。脳・身体・行動・環境は相互に変化します。大切なのは、特定の物質を出して自分を操作するのではなく、どの流れで注意や身体や接続が変わるかを観察することです。
科学的な整理は、「脳科学で習慣化する方法は間違い?ドーパミンは燃料ではなく結果なのか」で詳しく扱っています。
「続ける」から「創造を止めない」へ
過去の私は、同じ望ましい行動を繰り返すことを継続だと考えていました。
現在は、継続をもっと大きく捉えています。
昨日と今日で行動が違ってもよい。フローに入れない日があってもよい。休み、話し、読み、別のものを作ってもよい。
内側の興味が世界と接続し、次の創造へ姿を変えているなら、流れは続いています。
習慣・フロー・Currentの違いについては、「習慣とフロー状態の違い」でも整理しています。
習慣作家が最後に手放したもの
意志力でも、脳科学でも、環境設計でもありません。それらを使って「私が私を動かす」という前提でした。動かすのをやめたとき、すでに動いていた流れが見えるようになりました。
まとめ|この本自体が「続いてしまった」
『続いてしまう環境』は、計画して書き始めた本ではありません。
Currentを観察し、1センチだけ動き、現れた接続へ応答する。その過程そのものから生まれました。
かつて「脳を騙して続ける方法」を書いた人間が、自分を騙すことも、押すことも、決めた水路へ閉じ込めることも手放した。
そして初めて、同じ行動を続けなくても、創造そのものは止まらないと分かりました。
『続いてしまう環境』とは、自分を続けさせる場所ではありません。自分と世界の間ですでに始まっているCurrentが、次の形へ流れられる場所です。
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